七草粥(七種の春の若草を入れた粥)は、日本では人日(1月7日)の行事食として古くから親しまれています。いわれとしては「1年の無病息災を祈る」「年末年始のごちそうで弱った胃腸を休める」などがよく挙げられますが、実はこれらの七草には漢方的にも興味深い効能があるとされています。以下に主な七草と、その漢方的な特徴をまとめました。
七草とその効能(漢方的視点)
1. セリ(芹)
特徴:独特の香りには発汗作用や消化促進作用があるとされます。身体にこもった熱を冷ます、あるいは余分な水分を排泄するのに役立ちます。
薬膳:血行を促し、胃腸の働きを整えるのに良いと考えられています。
2. ナズナ(薺/ぺんぺん草)
特徴:春先に道端でよく見かける野草。軽い利尿作用や止血作用があると言われます。
薬膳:余分な水分・老廃物の排出を助け、身体を軽くする効果が期待されます。
3. ゴギョウ(御形/ハハコグサ)
特徴:乾燥させたものは古くから咳止めや去痰剤(痰を取り除く)として利用されてきました。
薬膳:肺の不調を整え、特に風邪気味のときにのどや気管支をサポートすると考えられています。
4. ハコベラ(繁縷/ハコベ)
特徴:ビタミン類が豊富とされ、古くから雑草ではなく食材・薬草として用いられてきました。
薬膳:熱を冷まし、腫れを抑える働きがあるとされ、口内炎や歯茎の腫れを改善する民間療法も知られています。
5. ホトケノザ(仏の座)
特徴:春先に紫色の小さな花をつける野草。実際には、七草で使われる“ホトケノザ”はタビラコ(コオニタビラコ)のこととされます。
薬膳:消炎・解毒作用を持つと考えられており、軽い胃腸の不調に使用されることもあります。
6. スズナ(菘/かぶ)
特徴:蕪(かぶ)のこと。消化を助け、胃腸を温める野菜として冬から春にかけて活躍します。
薬膳:気を巡らせる作用があり、胃もたれや胸のつかえ感などを緩和するとされています。
7. スズシロ(蘿蔔/だいこん)
特徴:大根のこと。消化酵素が豊富で、胃腸の働きを活性化させます。
薬膳:余分な熱や痰を取り除き、消化不良の改善に役立つと考えられています。
なぜ七草粥を食べるのか?
1.一年の健康を祈願する
春の若草には「芽吹き」「再生」というイメージがあり、新たな生命力が感じられます。これを食べることで、そのエネルギーを体に取り込み、一年の無病息災を願うとされています。
2.正月の食べ過ぎで疲れた胃腸を休める
正月料理やおせちでカロリーの高い食事が続いたあと、消化に優しい粥を食べて胃腸を労わる意味があります。実際、七草粥のやさしい味わいは、疲れた胃腸に負担をかけにくく、野草の香りやミネラル・ビタミンが身体を整えるのに役立ちます。
3.季節の節目に薬効を取り入れる
薬膳の世界では季節の変わり目に身体の調子を整える習慣が大切とされます。七草はそれぞれ、消化促進や排泄促進、免疫サポートなどを期待できる成分を含んでおり、冬から春へ向かう節目の時期に取り入れることで、体調を整えるという考えが背景にあります。
4.歴史的由来(人日と七種菜羹)
もともとは中国の「人日(じんじつ)の節句)」に七種類の菜が入った“七種菜羹”を食べる風習があったとも言われ、それが日本に伝わり、定着したものと考えられています。
まとめ
七草粥は「行事食」「胃腸を休める粥」として知られていますが、用いられる野草にはそれぞれ漢方薬としての一面もあり、消化促進・解毒・利尿・抗炎症などの効果が期待されてきました。正月明けの身体をいたわりながら、新年の健康と豊穣を祈るという意味合いが合わさって、現在まで受け継がれているのです。
日常的に意識する必要はありませんが、「一年を健やかに過ごすための最初の食養生」ととらえて、旬の若草のエネルギーを取り入れる行事として楽しむのも、七草粥の大きな魅力のひとつです。